デジタルトランスフォーメーションの定義

経済産業省では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(※)と定義している。

(※)デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、

  • ・手書きの文書がワープロ化された
  • ・アナログレコードがCD化/インターネット配信されるようになった
  • ・紙の資材が、HTML(Webページ)で提供されるようになった

というような単なる「デジタル化(デジタライゼーション)」の事を指しているのではなく、社会インフラやビジネスの基盤がデジタルに変容(トランスフォーム)することを指している。

デジタルトランスフォーメーション(DX)においては、従来のビジネスのコア部分にデジタルを活用することで、サービスを仕立て直し、新たな価値を提供することになる。
例えば、

  • ・タクシー業界であれば「ドライバーを客の乗せて移動する」→Uber
  • ・宿泊業界であれば「宿泊する場を提供する」→Airbnb
  • ・音楽業界であれば「音楽を楽しめるようにする」→Spotify

などが挙げられ、高性能なコンピュータが各利用者にスマホの手に渡り、またネットにいつでもつながるという究極のエンドコンピューティングが進むことにより、これまでリアルのみでは成しえなかったようなサービスが提供できるようになり、このようなデジタルトランスフォーメーション(DX)という定義が生まれてきたと考えられる。

デジタルトランスフォーメーション(DX)は従来型のシステム化とどのように異なるのか?

従来型のシステム化

従来のシステム化の例としては、「これまで紙を使って申請をしていたが、システムを使って効率化をしたい」などが主な例として挙がられる。
このような場合には、ビジネス部門がどのようなビジネス・フローにすべきかということがほぼ見えており、そのために具体的なシステム要件にまで落とし込み、システム部門にシステム要件を伝えることが可能である(もしくはビジネスコンサルタントが入ることで、システム要件化を進める)。つまり、目指すゴールはビジネス部門の中にある。システム要件が明確であれば、システム設計を行い、開発を行い、リリースを行うというウォーターフォール的な開発でシステムが完成すると考えている。

DX化によって創り出す世にない新しいサービス

一方のDX化の場合には、「こんなことをしたい」「こんなサービスを立ち上げたい」というまだ世にないサービスを出していくために、非常にざっくりとした目的がビジネス部門から出てくることが多い。

その場合にはビジネス部門からシステム要件を出してもらうとしても、そのシステム要件が明確ではないために、システム化をいきなり進めることはできない。よって、DX化を行う場合には、ビジネス部門からの目的を一旦はシステム部門が活用するデジタル技術を見据え、概要レベルでシステムのデザイン化を行い、

  • ・ビジネス・スキーム(ステークホルダー間の関係)
  • ・カスタマー・ジャーニー(概要レベルでのビジネス・フロー)
  • ・ワイヤー・フレーム(画面イメージによるイメージの深堀り)

という概要レベルでのすり合わせをまず行わないと、目指すサービスの具体的な姿が見えてこない。つまりデジタル技術を知りながらも、ビジネスの流れを想定しながら、目指すシステムの絵を描いていくという妄想力が必要になる。これまでの要件が出ないと動けないというシステム部門/企業の動きでは、新たな世界は作りにくい。またやはり走りながらもカスタマー視点に立つことで見てくる新たな要件が見えてきたり、法的な観点からこれまで想定してこなかったシステム要件を追加する必要がある、など目まぐるしい変更が入りやすいと考えている。

よって概要レベルでのすり合わせがアジャイル的に何度か繰り返されることによって、ようやくシステム要件としては固まってくる。要件を出し切るには、ビジネス側とシステム側のイメージが一致する必要がある。またシステム設計や開発が具体的に進んでも、より具体的なカスタマー・ジャーニーを考えていくことでシステム要件が変わってくる。

DXサービスを生み出す開発プロセス

アジャイル的に要件→設計→開発→テスト・検証というサイクルを回すことも有効とは思われるが、まだこの世にないサービスを開発する・システムを創出する段階(0→1フェーズ)においては、全体像が見えない中で開発したシステムが系全体として最適化されていない可能性や、十分な品質を守れない可能性がある。よって全てをアジャイル的に開発するのではなく、システムの実開発まではドキュメントレベルなどで議論を重ねながらビジネス要件がほぼ出きったところでウォーターフォール開発にしていき、一旦は0→1フェーズを完成するという方法が有効なのではないかと考えている。
デジタル・サービスは目には見えないため、一旦0→1フェーズによって具体的な形にすることでビジネス部門やシステム部門、そしてステークホルダーにも具体的なイメージができるようになり、改善・改良するための意見が生まれやすくなる。これにより、これまで机上で語られていた議論の正誤が、実際に完成しデジタル・サービスによって証明されてくる。1→10フェーズにおいては、実際のステークホルダーの意見を聞くことによって、ブラッシュアップをしやすくなる。このフェーズにおいては、アジャイル開発が有効になってくると考えている。